Lesson 8 FUEの利点の一つである選択的グラフト採取の欠点について考えておこう!
選択的グラフト採取(cherry-picking technique)はFUEの大きな利点の1つです。
この技術が使えるからこそ、FUT/FUSSと違って、ひげや胸毛などの体毛からも毛髪を採取することが可能となります。
そして、脱毛治療に対する植毛術では、後頭部から3本毛以上のグラフトを狙い撃ちして採取することによって、最大の効果を発揮することができます。
つまり、AGA脱毛に対する植毛術や頭髪の増毛手術において、太い毛髪や本数の多いグラフトを選択的に採取することによって、効果的に毛量を増やすことができる非常に効率的な植毛術を実現します。しかし、特にドナー密度が低い方や広範囲の脱毛領域に植毛術を行わなければならない方にとっては注意が必要となる技術です。
FUEにおける選択的グラフト採取では、大きな利点があります。
特に、AGA脱毛者において、1回の手術で毛量を最大限に増やしたい方にとっては威力を発揮する技術となります。この技術の利点については、かっぱハゲへの植毛術・FUEパワーの発揮:選択的グラフト採取についてをご参考にしていただければよいかと思います。
症例としてよくあるAGA脱毛者のケースで説明すると、後頭部のAGAの影響を受けない太い毛髪をドナーとして採取していきます。日本人の場合は、一番最初の図の左写真で見るとわかるように、1つの毛穴(これを”毛包単位=Follicular unit”と呼びます。)から1本から3本の太い毛髪(終末毛=Terminal hairと呼びます。)が発毛しています。
ご存知の方も多いと思いますが、FUEでは一般的には1つの毛穴単位でくり抜き採取していくのが普通です。ここでお気づきの方も多いと思いますが、パワーのあるグラフトなら、3本の毛穴ばかり狙い撃ちして取っていったら良いのではないかと思うでしょう。
その考え方は正解で、毛量を得たいのであれば、パワーのある3本毛グラフトだけを採取できれば、効率が極めて良いのは確かです。特に、つむじ領域のように、繊細さよりもむしろ毛量が必要となる場所に移植する場合、尚更そのような太くて毛髪数の多いグラフトの方が有利です。また、マネー的にも得した気分になるかもしれません。
では、1回目の植毛術で、3本毛グラフトを選択的に採取した患者さんが、再度移植術を希望して、同じドナー部からもう1回FUEを行って植毛術を行いたいと考えた場合はどうでしょうか?
今度は2番目の図を見てください。
1回目に3本毛ばかりを採取してしまったために、3本毛の毛穴は見当たりません(図の左写真)。なので、今回は、仕方なく2本毛のグラフトを狙い撃ちして前回と同じ数だけ10グラフト採取することととしました。
取り残されたドナー部を見るとかなり透け透けになっているのがわかります(図の右写真)。
また、これは普通の透け透けの状態ではなく、実際には合計20個もある点状のキズは白光して目立った状態となります。したがって、この部分が露出する場所では他人が後方から見ると目立って仕方なくなるので、刈り上げてしまうことができなくなってしまうのです。つまり、本来のFUEの点状キズが目立ちにくいという利点が全くなくなってしまいます。
暇な人は図の右写真で数をおおまかに数えて見るとわかると思いますが、1本毛の毛穴が20個ほど取り残されています。
ということは、もともとこの写真の範囲には毛穴が40個ほどあって、ちょうど半分採取して半分が残っている状態です。
写真の結果と見てお気づきでしょう。
毛穴から半分しか採取していないが、もうこれ以上この場所ではFUEは使えないと⋯。もし再度採取してしまうと、見るも無惨な点状のキズで満たされたハゲ状態になってしまう可能性が高まってしまいます。
日本人の場合、半分以上の毛穴をFUEで引き抜かないのが良いというのは、単純にこういった理由もあるからなのです(これ以上、引き抜いたらドナー部がハゲみたいになってしまうからです)。
では、ここで日本人の特性を知るために、実際の症例で、白人のドナーと比較してみましょう・
日本人を白人と比較すると、頭髪は太いですが、毛穴の密度は少なく、1つの毛穴から出ている毛髪も少ないのがわかります。写真は実際に採取された後のドナー部を見ていますが、日本人の方は1本毛ばかりが取り残されていて、再度FUEを行うにしても本数の多い良いグラフトは採取できないのがわかります。また、もともとの毛穴の密度が低いので、この画面では8.5個のグラフトしか採取していません。
一方、図の右写真の白人のケースを見ると、密度が高いため、この画面で、11.5個のグラフトを採取できているのがわかります。さらに、まだ3本毛以上の毛穴が残されているので、次のFUEでも、まだパワーのある3本毛のグラフトが比較的多く採取できることがわかります。しかし、この場合であっても、もともとの半分位の数の毛穴を引き抜いてしまったら、同じ場所からの3回目のFUEはたとえ白人であっても推奨するものではありません。しかし、日本人と違って断然、行って良いケースは多いと思われます。
以上のことから、
FUEでの選択的グラフト採取=Cherry-pickingは、特に手術操作が加えられていない初回手術で威力を発揮します。
しかし、植毛術を何回も行うような脱毛状態の患者さんの場合は非常に注意する必要があります。
特に、AGA脱毛の素因のある方が、予防薬を使用せずに脱毛が進行していった時、以前の植毛術でFUEを行っていたら、大きなデメリットとなってきます。したがって、このようなケースではフィナステリドやデュタステリドのようなAGA脱毛治療薬を継続的に初回手術後以降も使用することを忘れてはなりません。
また、AGA脱毛症の素因のある方で継続的な薬剤治療を行わない可能性のある方は、植毛術を行うことを急ぐのではなく、限界に達した時にFUT/FUSSを選択することが懸命といえます。FUEは、FUT/FUSSと比較して将来に起こり得る早期のドナー枯渇(ドナーから採取する毛髪がなくなること)が早まることを念頭に置いておかなければなりません。広範囲のドナー部にダメージを与えるFUEの欠点を十分にご理解しておくのが懸命です。
(2026年2月 K. Yamamoto)