Lesson 17. 若年者であるにもかかわらず、脱毛が急速に進行してしまったら”どうする?”
20歳代前半、strip FUT/FUSSでの前頭部修正の症例。
脱毛治療を放置してしまうと、後々治療に難渋します。
FUE:2000グラフト(最終グラフト数:2004グラフト)。

【術前】
HN分類(➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。):5型。
15歳から薄毛を気にしていたが、20歳前後から脱毛がどんどん進行していったようです。市販育毛剤を半年間使用していたが効果は見られず、植毛術をご検討されたようです。
術前写真を見ると、20歳代前半であるにもかかわらず、前頭部はほぼ無毛になりかけており、つむじ部は放置すると”カッパハゲ”になりそうであると予想できます。
まさに、40歳~50歳位の男性という状態でしょう。ご年齢を考えると精神的ストレスは想像以上かと思われます。
ただし、このような状態であっても、できるだけ早期に治療することによって、脱毛自体がかなり改善されたり、さらに、脱毛進行の予防効果が劇的にアップする可能性が高くなることをご理解しておく必要があります。
実際の治療方針としては、絶対的条件として脱毛進行予防薬の継続使用が最も大切な治療となります。植毛術はあくまで薬剤による明確な改善を認めない場所や将来を考えて毛量が多いのが望ましい場所に毛髪を追加するというもので、本来しかたなく実施する最終的手段とご理解していただくとよいと思います。
簡単にいうと、植毛術は薬剤で効かない場所や薬剤だけでは見栄え的に毛髪が足りない場所に移植するということです。そして、植毛術を行う立場としては、若年者では、将来的に薬剤の効果が低い場合にどのようなハゲになってしまうかということを想像していないこともあるので、不適切な生え際のラインで移植しないことが重要になります。
。
遺伝的素因:長男は2型で、父方に脱毛者はいませんが、母方は詳細不明です。
ドナーの状態:後頭部のドナー密度は年齢の割にかなり低密度です。AGA脱毛自体が発症していない15歳で薄毛を感じていたようなので、頭髪全体が本来少なかったためというのが納得できる状態でした、したがって、このような症例に植毛術を行う場合、ドナーの毛髪の損失を避けることが大切です。
術式の選択:通常、20歳代男性で植毛術を行う場合は、FUEを推奨しています。理由は、FUEの場合、若年者であるほど、毛髪の損失が少ないからです。つまり、損失が最小限であるドナー部を塊として採取するFUT/FUSSと比較しても大きな損失の差が生じないことが多いためなのです。
【手術評価】
高度AGA脱毛者となると、移植毛はいくらあっても足りません。
しかし、当たり前のことですが、患者さんの立場からすると植毛術はできるだけ1回で終わりたいと考えているものです。今回は、ドナー採取量として2000グラフトを持ち分として移植することになりました。さて、1回の植毛術でどこに移植すべきかと考える時、薬剤を含めた結果も考慮して戦略を立てる必要があります。
特に、成人になったばかりの20歳代前半であると、AGA脱毛が見かけ上進行していたとしても、まだ毛髪自体の老化進行は軽度なことが多く、薬剤治療で劇的に改善することも期待できるわけです。そのようなことを考慮しても、前頭部全体の脱毛進行度は高く、この部分に絶対に植毛術を実施しなければならないことはどなたでもおわかりかと思います。
問題なのは、現状でも薄毛が目立つ”カッパハゲ”の根源となるつむじをどうするかということです。この場所は本来100%の毛量が必要な場所なので、たとえ薬剤効果があったとしても満足いくレベルまで改善するかは実際のところわからないからです。
しかし、今回は、20歳代前半という極端に若い年齢のため、十分な薬剤効果を期待して、前頭部のみに集中的に移植することになりました。実際、前頭部に平均移植密度約40グラフト/㎠で移植しています。
FUEの評価:
FUEで最も評価すべき検査は、毛包切断率です。この例では、毛包切断率(➡ Step3『Proの植毛術』をご参考ください。)は12%でした。また、グラフト損失率は7%でした。FUEの結果としては、ご年齢的にかなり悪い結果でした。このように、若年者であっても、ドナー密度が低く、根本的に体質の問題がある場合、通常よりも移植毛の採取は悪いので、このあたりがFUEの欠点なわけです。ただし、採取自体はパワーのあるドナー毛を選択的に採取できる場合が多いので、移植結果自体が極端に悪くなるということ自体は少ないと思います。
ただし、FUEを行うにあたって最も問題なのは、ドナー部を広範囲に損傷し、状態の良いドナー毛を選択採取してしまうので、複数回植毛術ができなくなってしまい、同じ部位から採取を続けるとボロボロのドナー部となってドナー枯渇がFUT/FUSSより圧倒的に早まってしまうことです。

【手術結果 - 術後6ヶ月目・術後1年目】
術後6ヶ月目の写真を見てください。前頭部の移植部の結果もすでにはっきりとわかる状態になっています。さらに、注目してもらいたいのは、つむじ部や真ん中で分けた分け目の部分を見ていただくとよいのですが、移植もしていないのに毛量がかなり増えているのがわかります。
このように、特に若年者では薬剤効果が高いことが多いので、早期治療がいかに重要であるかがわかります。
【FUEのドナー部の結果:術後1年目】
今回の症例の問題は、ドナー密度が低く、ご年齢的に見ても毛髪の太さが細いことです。FUEで採取する場合、このようにドナー条件が悪かったとしても無数の点状のキズが目立つということはありません。よく見ると、点々とした白い無数のスポットがわかるでしょう。
上記で述べたように、AGA脱毛者ではFUEで行う人ほど、継続的な薬剤治療が重要です。
(2025年7月 K. Yamamoto記)